はじめに — ノーコードは「エンジニアの代替」ではなく「起業家の武器」
2026年、ノーコード・ローコードツールの市場規模は全世界で約500億ドルに達した。もはやノーコードは一時的なトレンドではなく、プロダクト開発の主要な選択肢の一つだ。
しかし、ツールの数が増えすぎて「結局どれを使えばいいのか分からない」という声をよく聞く。この記事では、スタートアップの創業者やプロダクトマネージャーが実際に使うケースを想定し、主要3ツール(Bubble、FlutterFlow、Supabase)を徹底比較する。
筆者自身、これらのツールを使って3つのMVPを構築した経験がある。机上の空論ではなく、実際の使用感に基づいたレビューだ。
第1章:Bubble — Webアプリ構築の王道
Bubbleとは
Bubbleは、コーディング不要でフル機能のWebアプリケーションを構築できるプラットフォームだ。2012年のリリース以来、ノーコード界の老舗として君臨し続けている。データベース、ワークフロー、UI構築、API連携がオールインワンで提供される。
良い点
1. 圧倒的な自由度
ノーコードツールの中で、Bubbleの自由度は群を抜いている。ピクセル単位でのUI調整、複雑な条件分岐のワークフロー、外部APIとの連携。「ノーコードでここまでできるのか」と驚くレベルだ。
2. プラグインエコシステム
2,000以上のプラグインが用意されており、決済(Stripe)、認証(Google OAuth)、地図(Google Maps)、チャット機能などを簡単に追加できる。自分でプラグインを開発することも可能だ。
3. データベースが内蔵
外部のデータベースを用意する必要がなく、Bubble内でデータモデルの設計からCRUD操作まで完結する。リレーションシップも設定可能で、中規模のアプリであれば十分に対応できる。
悪い点
1. パフォーマンスの限界
ユーザー数が1,000人を超えたあたりから、レスポンスの遅延が顕著になる。特にデータベースの検索が重く、複雑なクエリを実行すると3〜5秒かかることもある。スケーリングには限界がある。
2. 学習コストが意外と高い
「ノーコード」と銘打っているが、ワークフローの設計にはプログラミング的な思考が必要だ。条件分岐、ループ処理、API連携の設定は、初心者にとってハードルが高い。習得に2〜3ヶ月はかかると覚悟した方がいい。
3. コード出力ができない
Bubbleで構築したアプリをソースコードとして書き出すことはできない。つまり、Bubbleから離れる場合はゼロから再構築する必要がある。ベンダーロックインのリスクは覚悟すべきだ。
料金プラン(2026年時点)
- Free:学習用。カスタムドメイン不可、API呼び出し制限あり
- Starter:月額$32。個人プロジェクト向け
- Growth:月額$117。本番運用向け。チーム開発機能あり
- Team:月額$349。大規模チーム向け
Bubbleが向いているケース
- Webアプリ(SaaS、マーケットプレイス、社内ツール)のMVP構築
- ユーザー数1,000人以下の初期フェーズ
- モバイルアプリが不要なケース
第2章:FlutterFlow — モバイルアプリの最適解
FlutterFlowとは
FlutterFlowは、Googleが開発したUIフレームワーク「Flutter」をベースにした、モバイル&Webアプリのビジュアル開発ツールだ。ドラッグ&ドロップでUIを組み立て、ロジックもビジュアルに設定できる。最大の特徴は、Flutter(Dart言語)のソースコードをエクスポートできること。
良い点
1. ネイティブアプリ品質
Flutterベースなので、iOS/Androidのネイティブアプリと遜色ないパフォーマンスが得られる。アニメーション、画面遷移、スクロールの滑らかさは、他のノーコードツールとは一線を画す。
2. コードエクスポート
構築したアプリをFlutter/Dartのソースコードとして完全にエクスポートできる。ノーコードでMVPを作り、PMF後にエンジニアがコードベースを引き継いで開発を続けるというワークフローが可能。ベンダーロックインの心配がない。
3. Firebaseとの統合
Google Firebaseとの統合が深く、認証、データベース(Firestore)、ストレージ、プッシュ通知がワンクリックで設定できる。バックエンドの知識がなくても、本格的なアプリが構築できる。
4. カスタムコードの注入
ビジュアルエディタだけでは実現できない機能は、カスタムコード(Dart)を直接書いて注入できる。ノーコードとプロコードのハイブリッド開発が可能だ。
悪い点
1. Webアプリの品質がイマイチ
FlutterFlowはモバイルアプリには最適だが、Webアプリの品質は発展途上だ。SEOへの対応が弱く、Web特有のUI/UXパターン(ブレッドクラム、サイドバーナビゲーション等)の実装がやや面倒。
2. 複雑なバックエンドロジックには不向き
Firebaseベースのため、複雑なリレーショナルデータの扱いや、バッチ処理、トランザクション管理は難しい。これらが必要な場合は、Supabaseやカスタムバックエンドとの併用を検討すべきだ。
3. チーム開発の制限
同時編集機能はあるものの、Gitのようなバージョン管理やブランチ戦略は使えない。3人以上のチームでの共同開発はコンフリクトが起きやすい。
料金プラン(2026年時点)
- Free:学習用。ビルド回数制限あり
- Standard:月額$30。個人開発者向け
- Pro:月額$70。コードエクスポート可能
- Teams:月額$70/人。チーム開発機能あり
FlutterFlowが向いているケース
- iOS/Androidモバイルアプリの MVP 構築
- 将来的にネイティブアプリとして発展させたいケース
- UI/UXの品質が重要なコンシューマー向けアプリ
第3章:Supabase — オープンソースのバックエンド基盤
Supabaseとは
Supabaseは、「Firebaseのオープンソース代替」として急成長しているBaaS(Backend as a Service)だ。PostgreSQLベースのデータベース、認証、ストレージ、リアルタイムサブスクリプション、Edge Functionsを提供する。
厳密にはノーコードツールではなく「ローコードバックエンド」だが、フロントエンドのノーコードツール(Bubble、FlutterFlow)と組み合わせることで、真価を発揮する。
良い点
1. PostgreSQLの力
Firebaseの最大の弱点だった「リレーショナルデータの扱い」が、Supabaseでは完全に解決される。SQLが使えるため、複雑なクエリ、JOIN、集計処理も思いのまま。データ分析にもそのまま使える。
2. オープンソースでロックインなし
Supabaseはオープンソースなので、自分のサーバーにセルフホストすることも可能。クラウドサービスが値上げしたり、サービス終了した場合でも、データとコードは完全に自分のもの。
3. Row Level Security(RLS)
PostgreSQLのRLS機能をフル活用し、データベースレベルでアクセス制御ができる。「このユーザーは自分のデータだけ読み書きできる」というルールをSQLで定義するため、セキュリティが堅牢だ。
4. Edge Functions
Deno/TypeScriptベースのサーバーレス関数が使え、外部API連携、Webhook処理、定期バッチなど、バックエンドロジックを柔軟に実装できる。
悪い点
1. フロントエンドは自分で用意する必要がある
Supabaseはあくまでバックエンドサービスなので、フロントエンドは別のツール(React, Next.js, FlutterFlow等)で構築する必要がある。完全なノーコード体験は得られない。
2. リアルタイム機能に制限あり
リアルタイムサブスクリプションは便利だが、同時接続数が多い場合(1,000接続以上)はパフォーマンスが低下する。チャットアプリなど、リアルタイム性が重要なケースでは注意が必要だ。
3. まだ発展途上の部分がある
2020年にリリースされた比較的若いサービスのため、ドキュメントが不足している部分や、エッジケースでのバグに遭遇することがある。コミュニティは活発だが、Firebaseほどの情報量はまだない。
料金プラン(2026年時点)
- Free:個人プロジェクト向け。DB容量500MB、月間5GBの帯域
- Pro:月額$25。8GB DB、250GBの帯域
- Team:月額$599。SOC2準拠、優先サポート
- Enterprise:要問合せ。SLA、専用サポート
Supabaseが向いているケース
- リレーショナルデータが複雑なアプリ(EC、CRM、在庫管理等)
- 将来的にスケールを見据えているケース
- エンジニアがチームにいて、フロントエンドは自前で構築できるケース
第4章:3ツール比較表
| 項目 | Bubble | FlutterFlow | Supabase |
|---|---|---|---|
| カテゴリ | フルスタックノーコード | フロントエンドノーコード | バックエンドBaaS |
| 対象プラットフォーム | Web | iOS/Android/Web | 全プラットフォーム |
| 学習コスト | 中〜高 | 中 | 中(SQL知識要) |
| コードエクスポート | 不可 | 可能(Flutter/Dart) | N/A(元々コードベース) |
| スケーラビリティ | 低〜中 | 高 | 高 |
| 月額コスト(本番運用) | $117〜 | $70〜 | $25〜 |
| ベンダーロックイン | 高 | 低 | なし |
第5章:ユースケース別おすすめ構成
ケース1:BtoB SaaSのMVP
おすすめ:Bubble
BtoB SaaSのMVPは、Webアプリで十分。Bubbleでダッシュボード、管理画面、CRUD操作を素早く構築し、顧客の反応を見る。PMF後にReact/Next.jsで再構築するパスが一般的。
ケース2:コンシューマー向けモバイルアプリ
おすすめ:FlutterFlow + Supabase
UIの品質が重要なコンシューマーアプリは、FlutterFlowでフロントエンドを構築し、バックエンドにSupabaseを使う。FlutterFlowのFirebase統合は便利だが、データが複雑になるケースではSupabaseの方が適している。
ケース3:マーケットプレイス
おすすめ:Bubble(初期)→ Next.js + Supabase(スケール時)
マーケットプレイスは機能が多いため、初期はBubbleで素早くプロトタイプを構築。PMF後にNext.js + Supabaseでスケーラブルなアーキテクチャに移行する。
おわりに — ノーコードは「手段」であり「目的」ではない
ノーコードツールは、起業家にとって強力な武器だ。しかし、ツール選びに時間をかけすぎて、本質的な顧客検証が疎かになっては本末転倒だ。
大切なのは「何を検証したいか」を先に決め、それに最適なツールを選ぶこと。ツールは手段であり、目的はあくまで「顧客の問題を解決すること」だ。
次回は、スタートアップ向け会計ソフトの決定版レビュー。freee、マネーフォワード、バクラクを実際に使って比較する。









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