freeeとマネーフォワード、どっち選ぶかで税金が変わる — スタートアップ会計の最適解

はじめに — なぜ会計ソフト選びが重要なのか

「会計なんて後回しでいい」。こう考えているスタートアップの創業者は多い。しかし、会計ソフトの選定は事業の初期段階で行うべき最も重要な意思決定の一つだ。なぜなら、会計データは一度蓄積が始まると移行コストが膨大になるからだ。

実際に、会計ソフトの移行に3ヶ月を費やしたスタートアップを知っている。その間、経理担当者は通常業務との兼務で疲弊し、月次決算が2ヶ月遅れた。最初から適切なツールを選んでいれば、こんな事態は避けられた。

この記事では、日本のスタートアップに最も使われている3つの会計ソフト——freee、マネーフォワードクラウド、バクラク——を、実際に使い込んだ経験に基づいて徹底比較する。

第1章:freee会計 — 「非経理人材でも使える」がコンセプト

freeeの特徴

freeeは2013年にリリースされた、日本初のクラウド会計ソフトだ。「簿記の知識がなくても使える」をコンセプトに、直感的なUIと自動仕訳機能で急成長した。2024年時点で有料課金ユーザー数は50万事業所を超え、国内シェアNo.1を誇る。

良い点

1. 圧倒的な初心者フレンドリーさ
freeeの最大の強みは、簿記の知識がなくても帳簿をつけられる点だ。取引の登録画面は「収入」「支出」のシンプルな形式で、勘定科目は自動推測してくれる。仕訳帳ではなく「取引」という概念で管理するため、経理未経験の創業者でも直感的に操作できる。

2. 銀行・クレジットカード連携の精度
3,200以上の金融機関と連携し、取引明細を自動取得。AIによる勘定科目の推測精度は約90%で、同じ取引先からの入出金は2回目以降ほぼ自動で仕訳される。月末の仕訳作業が劇的に削減される。

3. ワンストップの経営管理
会計だけでなく、請求書発行、経費精算、給与計算、人事労務、会社設立まで、バックオフィス業務を一気通貫でカバーする。スタートアップにとっては、複数のツールを使い分ける手間が省けるのは大きい。

悪い点

1. 独自の設計思想ゆえの「癖」
freeeは一般的な会計ソフトとは異なる設計思想を持つ。たとえば「振替伝票」の概念がなく、複合仕訳の入力が直感的でない。簿記の知識がある経理担当者ほど、違和感を覚えやすい。

2. 大量データ時のパフォーマンス
取引数が月間1,000件を超えると、画面の読み込みが遅くなる傾向がある。EC事業など取引量が多い業態では、ストレスを感じることがある。

3. カスタマイズ性の限界
レポートのカスタマイズ性が低く、VCや銀行が求める独自フォーマットの資料を出力するには、CSVをダウンロードしてExcelで加工する必要がある。

料金プラン

  • スターター:月額2,680円。個人事業主向け
  • スタンダード:月額5,280円。小規模法人向け
  • アドバンス:月額47,760円(年額)。中規模法人向け

第2章:マネーフォワードクラウド会計 — 経理のプロが支持する正統派

マネーフォワードの特徴

マネーフォワードクラウド会計は、家計簿アプリ「マネーフォワードME」で知られるマネーフォワード社が提供するクラウド会計ソフトだ。一般的な複式簿記の体系に忠実な設計で、経理経験者からの支持が厚い。

良い点

1. 正統派の会計体験
複式簿記のルールに忠実な設計で、仕訳帳、総勘定元帳、試算表などの帳票が標準的な形式で出力される。税理士や会計士との連携がスムーズで、「freeeの仕訳を修正するのに時間がかかる」という税理士の不満が解消される。

2. 部門別管理の充実
複数の部門やプロジェクトごとに損益を管理できる機能が標準搭載。事業が複数ある場合や、プロジェクト別の採算管理が必要な場合に威力を発揮する。

3. API連携の柔軟さ
公開APIが充実しており、自社システムとの連携が容易。エンジニアがいるスタートアップなら、自動化の幅が広がる。たとえば、Stripeの決済データを自動で仕訳に反映するスクリプトも比較的簡単に構築できる。

悪い点

1. 初心者にはハードルが高い
簿記の知識を前提とした設計のため、経理未経験の創業者が一人で使いこなすのは難しい。最低限、簿記3級程度の知識は必要だ。

2. プラン体系が複雑
会計、請求書、経費精算、給与計算が別々のサービスとして提供されており、全機能を使うと月額コストが膨らみやすい。freeeのようなオールインワン感はない。

3. UIの洗練度
機能は充実しているが、UIの洗練度ではfreeeやバクラクに一歩劣る。画面遷移が多く、目的の機能にたどり着くまでのクリック数が多い印象だ。

料金プラン

  • スモールビジネス:月額3,980円。小規模法人向け
  • ビジネス:月額5,980円。中規模法人向け
  • エンタープライズ:要問合せ

第3章:バクラク — 新世代の経理DXツール

バクラクの特徴

バクラクは、LayerX社が2021年にリリースした比較的新しいサービスだ。AI-OCRによる請求書処理を起点に急成長し、現在は会計、経費精算、請求書発行、電子帳簿保存まで幅広くカバーしている。

良い点

1. AI-OCRの精度が圧倒的
バクラクの最大の差別化ポイントは、請求書のAI-OCR処理の精度だ。紙の請求書をスキャンするだけで、取引先名、金額、日付、勘定科目を自動認識し、仕訳を生成する。精度は業界最高水準の約95%。経理担当者の手入力作業が大幅に削減される。

2. 電子帳簿保存法への完全対応
2024年1月に義務化された電子帳簿保存法(電子取引データの電子保存義務)に完全対応。タイムスタンプの自動付与、検索要件の充足、訂正削除の防止措置がすべて標準機能として搭載されている。

3. モダンなUI/UX
LayerXがテクノロジー企業であることもあり、UIの洗練度は3つの中で最も高い。特に承認ワークフローの設計が秀逸で、Slackとの連携により「Slackから承認」が可能。経費精算の承認がSlack上で完結するのは、リモートワーク時代には大きなアドバンテージだ。

悪い点

1. 会計機能は発展途上
バクラクの核心は請求書処理と経費精算であり、会計機能はfreeeやマネーフォワードと比べるとまだ機能が少ない。現時点では「バクラク+freeeまたはマネーフォワード」という併用パターンが多い。

2. 小規模企業にはオーバースペック
従業員5名以下の小規模企業にとっては、AI-OCRや承認ワークフローの恩恵は薄い。月数十枚の請求書なら手入力でも対応できるため、コストパフォーマンスが合わない場合がある。

3. エコシステムの狭さ
freeeやマネーフォワードと比べると、対応する外部サービスや税理士の認知度がまだ低い。「バクラクに対応している税理士」を探すのに苦労する場合がある。

料金プラン

  • 請求書受取:月額30,000円〜
  • 経費精算:月額30,000円〜
  • 会計:個別見積もり

第4章:3ソフト比較表

項目 freee マネーフォワード バクラク
対象ユーザー 非経理人材 経理経験者 中規模以上の経理部門
初期設定の簡単さ
簿記知識の必要度 不要 必要 やや必要
銀行連携
請求書処理(OCR)
税理士連携
API
月額コスト(法人) 5,280円〜 3,980円〜 30,000円〜
電子帳簿保存法対応

第5章:ステージ別おすすめ

創業〜シード期(従業員1〜5名)

おすすめ:freee
経理専任がいない創業初期は、freeeの「簿記知識不要」が最大の武器。創業者が自分で帳簿をつけられるため、外注コストを最小化できる。月額5,280円は、税理士の顧問料(月3〜5万円)と比べても圧倒的に安い。

シリーズA前後(従業員10〜30名)

おすすめ:マネーフォワード
経理担当者を採用し始めるフェーズ。正統派の会計体系と部門別管理機能が活きる。IPOを見据えた管理体制の構築にも対応できる。

シリーズB以降(従業員30名以上)

おすすめ:バクラク + マネーフォワード
請求書処理と経費精算の効率化が重要になるフェーズ。バクラクのAI-OCRで経理部門の生産性を上げつつ、会計機能はマネーフォワードで運用する併用パターンが最も効率的。

おわりに — 会計ソフトは「成長に合わせて乗り換える」もの

完璧な会計ソフトは存在しない。事業のステージによって最適解は変わる。重要なのは、今のステージに合ったツールを選び、必要に応じて乗り換える覚悟を持つことだ。

ただし、乗り換えのコストを最小化するために、日頃から以下を心がけてほしい。定期的にCSVバックアップを取ること。勘定科目体系を業界標準に寄せること。仕訳のメモ欄に十分な情報を残すこと。これらが、将来の移行を格段に楽にする。

次回は少し趣向を変えて、起業家の私生活に切り込む。起業家の離婚率はなぜ高いのか。事業と家庭のトレードオフの真実に迫る。