「終身雇用を守る」——トヨタ自動車の豊田章男会長のこの発言は、日本型経営の象徴として語られる。しかし、その裏にある冷徹な経営合理性を理解している人は少ない。
製造業における「暗黙知」の経済価値
トヨタの競争優位の源泉は、製造現場の暗黙知だ。設備の微妙な振動から異常を察知する能力、工程間の微調整を経験で判断するスキル。これらは10〜20年の現場経験でしか獲得できず、マニュアル化も困難。人材を入れ替えれば、この暗黙知は失われる。終身雇用は「優しさ」ではなく「暗黙知の保全コスト」なのだ。
サプライチェーン支配の道具
トヨタの終身雇用が維持できるのは、下請け企業が雇用調整弁の役割を果たしているからだ。需要が減少すれば、下請けへの発注を絞る。トヨタ本体の雇用は守られるが、下請けの従業員はそうではない。終身雇用は、サプライチェーン全体の犠牲の上に成り立っている。
採用ブランディングとしての合理性
終身雇用を掲げることで、トヨタは毎年日本トップクラスの学生を獲得できる。採用コストは同規模企業の半分以下。「終身雇用の安心感」は、優秀な人材を相場以下の給与で採用するための最強のツールだ。実際、トヨタの平均年収は同業他社と比較して突出して高いわけではない。
EV時代の矛盾
EV化が進めば、エンジン関連の部品点数は約3万点から約1万点に減少する。トヨタのエンジン関連従業員は約3万人。終身雇用を維持しながら、この3万人をどうするのか。「リスキリング」という美しい言葉の裏で、配置転換という名の実質的な降格が静かに始まっている。








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