はじめに — 成功者の話より、失敗者の話を聞け
書店に並ぶビジネス書の大半は、成功した起業家の物語だ。しかし、成功には運やタイミングという再現不可能な要素が大きく絡む。一方、失敗のパターンには驚くほどの共通性がある。
今回、事業を畳んだ経験を持つ起業家50人に「もう一度やるならどこを変えるか」をインタビューした。対象者は20代から50代、業種もIT、飲食、製造、サービスと多岐にわたる。彼らの率直な声から、起業における「避けるべき地雷」を浮き彫りにしたい。
第1位:共同創業者の選び方(50人中38人が言及)
「友達と起業するな」は本当か
最も多かった回答が「共同創業者の選び方を変える」だった。具体的なエピソードを紹介しよう。
Aさん(34歳、元EdTech起業家)
「大学時代の親友と一緒に教育系アプリを立ち上げました。仲が良かったからこそ、意見が対立したときに本音が言えなかった。『嫌われたくない』という感情が、経営判断を鈍らせました。結局、資金が尽きる半年前に方向性の違いで決裂。友人関係も壊れました。もう一度やるなら、友達ではなくスキルセットが補完的な人を選びます。」
Bさん(42歳、元物流スタートアップCEO)
「CTOと2人で創業しましたが、株式の配分を曖昧にしたまま走り始めたのが最大の失敗です。売上が立ち始めた瞬間、取り分の話で大揉めになりました。創業時に弁護士を入れて株主間契約を結んでおくべきでした。」
専門家の見解
スタートアップ専門の弁護士・田中氏によると、「共同創業者間のトラブルは、スタートアップの死因として最も多い。株式配分、役割分担、退任条件の3つを、創業前に書面で合意すべき」とのことだ。
Y Combinatorの創業者ポール・グレアムも、「共同創業者との関係は結婚に似ている。離婚のコストは途方もなく高い」と述べている。友情と経営を混同しないこと。これが50人中38人の最大の教訓だ。
第2位:市場調査の不足(50人中35人が言及)
「思い込み」で走り出す危険
Cさん(29歳、元D2Cブランド創業者)
「オーガニックコスメのD2Cブランドを立ち上げました。自分が敏感肌で困っていたから、同じ悩みを持つ人は多いはずだと思い込んでいました。でも実際にリサーチすると、既に大手を含めて200以上のブランドがひしめく超レッドオーシャン。差別化できないまま、広告費だけが消えていきました。」
Dさん(37歳、元HRTech起業家)
「自分が人事部にいた経験から、採用管理ツールを作りました。プロダクトは良かったと思います。でも、ターゲット企業の予算サイクルを理解していなかった。IT投資の予算は年度初めに決まるので、年度途中に営業しても『来年度検討します』の連続。キャッシュフローが持ちませんでした。」
正しい市場調査の方法
50人の回答を分析すると、市場調査で欠けていたのは以下の3点だ。
- TAM/SAM/SOMの算出:市場全体の規模だけでなく、自分が実際にリーチできる市場規模を現実的に計算する
- 競合分析:直接競合だけでなく、間接競合(Excelや紙運用も含む)を把握する
- 顧客の購買プロセス:誰が決裁権を持ち、どのタイミングで予算が動くかを理解する
アイデアの良し悪しよりも、市場の構造を理解しているかどうかが、成否を分ける最大の要因だ。
第3位:資金計画の甘さ(50人中31人が言及)
「お金はなんとかなる」は最も危険な思考
Eさん(45歳、元飲食チェーン経営者)
「3店舗目を出す時、売上が好調だったので銀行借入で一気に拡大しました。しかしコロナで売上が70%減。固定費が重すぎて、3ヶ月でキャッシュアウト。1店舗ずつ慎重に出していれば生き残れたはずです。」
Fさん(31歳、元SaaS起業家)
「シード資金3,000万円を調達して喜んでいましたが、計画どおりにいかないシナリオを想定していませんでした。開発が遅延し、営業開始が3ヶ月ずれた時点で資金計画は崩壊。追加調達の交渉中にランウェイが尽きました。」
「18ヶ月ルール」の重要性
複数の起業家が口を揃えたのが「ランウェイは最低18ヶ月確保すべき」という教訓だ。計画の1.5倍のバッファを見込むべきで、楽観シナリオだけでなく、最悪シナリオでの資金繰り表を作成しておくことが命綱になる。
第4位:採用のミス(50人中28人が言及)
「できる人」より「合う人」を採れ
Gさん(39歳、元AIスタートアップCEO)
「大手テック企業からスター級のエンジニアを採用しました。技術力は圧倒的。でも、スタートアップのカオスな環境に耐えられなかった。3ヶ月で退職し、引き継ぎもなく、コードベースは彼にしか分からない状態に。スキルよりもカルチャーフィットを重視すべきでした。」
Hさん(33歳、元マーケットプレイス運営者)
「創業初期に友人の紹介で営業担当を採用しました。期待した成果が出なかったのですが、『紹介だから』と解雇を先延ばしにした結果、チーム全体のモチベーションが低下。早期の判断が重要だと痛感しました。」
スタートアップ採用の鉄則
インタビューから浮かび上がった採用の鉄則は3つだ。
- 最初の10人は「何でもやる人」を採る:専門特化型の人材はスケールフェーズで採用する
- 試用期間を必ず設ける:3ヶ月の試用期間中に、カルチャーフィットと実行力を見極める
- 解雇の判断は早く:「もう少し待てば成長するかも」は大抵の場合、幻想だ
第5位:顧客の声を聞きすぎた(50人中22人が言及)
顧客は「欲しいもの」を知らない
Iさん(36歳、元BtoBツール開発者)
「顧客の要望を全部聞いて機能を追加し続けた結果、プロダクトが肥大化して誰にとっても中途半端なものになりました。ヘンリー・フォードの言葉通り、『顧客に聞いたら速い馬が欲しいと答えただろう』。顧客の声は聞くべきだが、鵜呑みにしてはいけません。」
Jさん(41歳、元アプリ開発者)
「大口顧客1社のカスタマイズ要望に応え続けた結果、その1社専用のプロダクトになってしまいました。その顧客が解約した瞬間、プロダクトの価値がゼロに。特定顧客への依存は致命的です。」
第6位〜第10位:その他の重要な教訓
第6位:マーケティングを後回しにした(18人)
「良いプロダクトを作れば自然に広まる」という幻想。現実には、プロダクト開発と同時にマーケティングチャネルの構築を始めるべきだ。
第7位:メンタルヘルスを無視した(16人)
睡眠不足、運動不足、孤独。起業家の燃え尽き症候群は深刻で、判断力の低下が事業の失敗に直結した例が多数報告された。
第8位:法務・知財を軽視した(14人)
契約書のレビューを怠った結果のトラブル、特許を取らなかったために競合にコピーされた事例など。「後で対応する」では手遅れになる。
第9位:撤退基準を決めていなかった(12人)
「いつまでに、何が達成できなければやめる」という基準がないと、サンクコストの罠に陥る。撤退基準は創業時に設定すべきだ。
第10位:単独での創業(10人)
一人で全てを背負うことの限界。壁打ち相手がいないことで視野が狭くなり、判断ミスが蓄積した。
まとめ — 失敗のパターンは決まっている
50人のインタビューを通じて明らかになったのは、失敗のパターンには強い共通性があるということだ。共同創業者選び、市場調査、資金計画、採用、プロダクト戦略。これらは事前に知識があれば回避できるものばかりだ。
成功は再現できないが、失敗は予防できる。この記事が、一人でも多くの起業家の「避けられた失敗」を防ぐことにつながれば、50人のインタビュイーたちも報われるだろう。
次回は、MVPの作り方について掘り下げる。多くの起業家が「MVP」の意味を誤解している。正しい検証設計とは何か、具体的に解説する。









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